現実派の西洋人と感覚派の東洋人。両者の好みの違いはどこから来るのか。


今日は「宝石」を切り口に、西洋と東洋の違いを比べてみたいと思います。

実は、西洋と東洋で宝石の好みに違いがあった事を前々から不思議に思っていたのです。

例えば、緑色の宝石の中で、エメラルドは西洋で古くから好まれていた宝石でしたが、東洋ではエメラルドではなく翡翠が珍重されていました。

どうしてこの違いがあるのか不思議に思ったので調べてみました。

緑の石の代表と言えば?西洋と東洋でこんなに違う

エメラルドはクレオパトラが愛した宝石として有名な話で、ヨーロッパの美術館には多くの歴史的価値のあるエメラルドを使ったジュエリーが所蔵されいている事からエメラルドが緑色の宝石の中では一番好まれていた事が伺えます。

例えば、下の写真のルーブル美術館所蔵の”アングレーム公爵夫人のティアラ”です。

ルーブル美術館所蔵”アングレーム公爵夫人のティアラ”エメラルドとダイアモンド。@RMN, Jean-Gilles Berizzi

これには40ピースのエメラルドと1031ピースのダイアモンドが使われています。

他にはルイ15世の王冠。

@ルーブル美術館/Martine Beck-Coppola

16ピースのエメラルドの他、282ピースのダイアモンド、16ピースのルビーとサファイア、そして237ピースの真珠が使われています。

この様に西洋で好まれる緑色の石と言えばエメラルドなのですが、日本を始めとする東洋ではちょっと様子が違います。

翠玉白菜/故宮博物院蔵/画像出展Wikipedia

これは世界一有名な白菜。日本でも展示会が開かれた台湾故宮博物院所蔵の翡翠で出来ています。

画像出典:東京国立博物館翡翠展

この勾玉は出雲大社が所蔵する翡翠勾玉です。

実は、世界で最初の翡翠文化は日本の縄文時代に生まれています。それが奈良時代以降、日本史の舞台から消えてしまい、その後中国で、清の時代(18世紀)から翡翠文化が花開き、明治の末に日本に輸入されるようになり、日本の翡翠文化が復活するのです。

天皇家に伝わる三種の神器のひとつ、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)は翡翠製で皇居にあるとされています。この様に、翡翠は東洋において神聖なものとして扱われていました。

エメラルドはジュエリーに仕立てられてる一方で、翡翠はジュエリーのような装身具よりも、祭祀・呪術に使われるために加工されたものが多くあって、用途も西洋との違いがはっきりしています。

この様に、西洋ではエメラルドが装身具として、東洋では翡翠が祭祀・呪術様に使われていました。

このはっきりとした違いは、エメラルドと翡翠の産地の違いは理由のひとつであると考えられますが、シルクロードを渡って中国の翡翠は西洋へ運ばれたのになぜ逆にエメラルドが中国、日本へ渡って来なかったのかが不思議です。

この謎の答えは西洋と東洋の美意識の違いにあるのではないかと思います。

西洋の美、東洋の美

光の捉え方の違い

それぞれの美意識の違いのそのひとつは目に見えたものの捉え方に出ています。

西洋画と大和絵を比べるとわかりやすいので、実際に見てみましょう。

光と構図の違い

下の絵はルノワール作、ポン・ヌフです。自然光の役割が強調された印象派らしい絵で、真夏のパリの自然光を意識した表現がされています。影の濃さから日差しの眩しさが伝わってきますね。

またパースがきちんと取られているので、距離感やスケール感、大きさ関係がイメージ出来ます。

一方の大和絵は、

歌川広重 作「伊勢参宮・宮川の渡し」です。

ルノワールの絵と同じく風景を描写したものですが、まったく印象は異なります。一番わかりやすいのは、この絵には影というものがありません。そのためとても平面的に見えます。光の存在が描かれていないのです。

また構図もルノワールのものと比べて、距離感がわかりにくいです。手前の群衆と川に浮かぶ船、対岸の人々と3段階の遠近法が使われていますが、その大小関係は西洋のそれと比べて現実とは違って見えます。両方の距離感、スケール感が実際とどのくらい近いのか、Google Mapのストリートビューで比べてみましょう。

まず、ポン・ヌフですが、絵画と近いスケール感に見えます。橋の幅や向こう側に見える建物までの距離もだいたい同じ距離に感じられます。

一方宮川の渡しは、実際にはもっと距離が離れているのがわかります。

現実とはギャップがありますね。

この二つの技法の違いは、表現したいものの違い、言い換えれば、美意識の違いによるものです。

美意識の違いが大きく出ているのは光の扱いで、西洋画は光を意識して陰影をはっきりと付けることによって、個々のモチーフの存在を浮きだたせていますが、浮世絵は陰影を描いていないため、平面的に見えます、

また、西洋画はパースをとることにより、現実に近いスケール感を感じさせる仕上がりになっていて要素の関係性をきちんと説明する事を重視しています。が浮世絵は遠近感が弱く現実にスケールは伝わらないものの、着物の柄や細部のモチーフの描写、全体から伝わる雰囲気を強調する事に成功しています。

この二つの違いをまとめると、西洋の美意識は光の強弱を意識した現実派、東洋の美意識は光でなく、全体の雰囲気を重視する感覚派と言えるでしょう。

現実派と感覚派の好む宝石

以上の事から、西洋と東洋の宝石の好みの違いには光に対する傾向の違いが現れていることが分かります。

エメラルドと翡翠のうち、強い光を当てて陰影をはっきりさせたほうが美しく見える宝石はどちらでしょう?

また、光を意識せず、全体の雰囲気を見せたほうが美しく見える宝石はどちらでしょうか?

前者はエメラルド、後者は翡翠です。

ルビーやアレキサンドライトの様な透明な色石もエメラルド同様強い光の下のほうが美しく見え、サンゴや真珠は柔らかい光のほうが美しく見えます。

ジュエリーショップの照明がスポットライトを使って光の強弱を出していることや、真珠の選別工場は光の変化の少ない北側に作られる事もこの事を裏付けています。

見ているものは同じはずなのに、美意識の違いがこんなにはっきりと違いを作るのは面白い事ですね!

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