言葉の代わりに贈るジュエリー。感謝の気持ちをのせた花のブローチ
感謝の気持ちを伝える言葉はいろいろありますが、それを上手く声に出せない時は何か別の形に気持ちを込めるのも一つの方法です。
今回ご紹介するオーダーメイドジュエリーのお客様も、感謝の気持ちをうまく言葉にできないとても恥ずかしがり屋な方でした。
ご結婚を控えたお客様から、ご家族に感謝の気持ちを込めたジュエリーを贈りたいとご相談を受けて色々とお話を伺いました。私と話す時はご家族への気持ちを素直に言葉にされるのに、直接言葉にするのは照れ臭くてなかなか出来ないと素直に話される時の笑顔がとても可愛らしいお嬢さんです。
そこで感謝の想いを込めたジュエリーを作って、ご家族に気持ちを伝える事になりました。
お祖母様、お母様、お姉様それぞれに伝えたい言葉を隠し味にしたブローチ作りが始まります。
今回ご紹介するのはお姉様へ宛てた感謝のジュエリーです。
お母様宛ては
お祖母様宛ては
でご紹介しています。
またお客様のウエディングドレスに合わせたパールのネックレスのリメイクもご紹介しています。
子供が大好き。正義の味方で頼りになるお姉様に似合うデザインは?
はじめに、ジュエリーをデザインするために身につける方のイメージを教えて頂きます。
お姉さまの印象はこの様におっしゃっていました(個人情報がわからない様にぼかした表現にしています)
「子供が大好きなので子供に関わる仕事に就きました。明るくていつもニコニコ楽天的。私の事を子供の頃からいつも守ってくれる正義の味方でした。南国やプルメリアが大好き。そう、南国の太陽みたいな人です。」
南国の太陽みたいな人。
ちょっと悲しかったり疲れている人も元気にしてくれるパワーを持った暖かい人。
そんなお姉様をイメージしました。
南国の花は色々あるけれど、真っ先にお客様の言葉に出てきたのはプルメリア。
ランでもハイビスカスでもなくプルメリアがお姉様そのものなのだなぁとイメージを膨らませました。
いつもニコニコ笑顔で暖かい人。太陽みたいな人。きっと周りにはたくさんの人が集まるのでしょうね。その人たちもみんな笑顔。笑顔の輪。笑顔の連鎖。
そんな想像をしながら頭に浮かんだのは
丸い形のブローチでした。
プルメリアの花をあしらった花かんむり。
大きな真珠を囲むプルメリアの花と小さな真珠。
そんなイメージが固まりました。
初めてのスケッチはこちらです。
お客様に見て頂いた所、とても喜んで頂けました。
私はデザインを考える時、初めのうちは構造の事はあまり気にせず、イメージを最優先して描きます。構造を最初から気にしすぎるとデザインが萎縮してしまい、ありふれたアイデアしか出てこなくなる事が多いからです。
話が少しそれますが、このスタイルは大学卒業して入社したセイコーでの仕事で身についたスタイルだと思っています。セイコーでは腕時計のデザインをしていましたが、腕時計は構造がとっても厳格に決まっているので、初めから構造を気にしているとデザインの余地を自ら狭めてしまうと感じる事が多々ありました。最終的には腕時計を作るのだけれど、デザイン初期はどういった世界を作りたいのかテーマを大事に発想を広げる事を大切にしていました。一旦世界を広げる事で小さな腕時計の世界にオリジナリティを出す事が出来ました。
ジュエリーに話を戻しますと、プルメリアの花かんむりのスケッチを描きながら制作手順を考えて、実現可能な構造を煮詰めてゆきます。
花かんむりの制作
構造的な話を少ししますと、真ん中の大きな真珠を留める枠と周りの花かんむりは別体で作って、最終的にろう付けという方法で付ける事にしました。
真ん中の真珠はマベパールです。真珠は二つと同じ形はないので、マベパールを留める、ピタリと収まり細く目立たない枠を作ります。
周りのプルメリアの花かんむりはワックスを削って作ります。時々マベパールの枠に合わせてみて、大きさやリズム感が整う様に注意しながら削って作ります。
下の画像はワックスの荒削りが終わった所です。
ワックスを仕上げたらキャストと言う鋳造をして金属のパーツにします。
マベパールの枠と花かんむりが出来たら、この二つをろう付けして、真珠を立てる芯とブローチ金具もろう付けします。
それとぜひご紹介したいのが、地味でありながらとても大事な下の画像の唐草模様のパーツです。
私たち職人は「下駄」と呼ぶものですが、ブローチならではの大事な役割があるのです。
皆さんはブローチを付けた時にお辞儀して下を向いてしまった事はありませんか?
ブローチがお辞儀をしてしまうのを防ぐストッパーの役目をするのが下駄です。
デザイン画を描く時にお辞儀をしない様に考えて全体の形やブローチピンの位置を考えるのは当然ですが、それに加え、下駄を履かせる事で身につけた時に安定するジュエリーになります。
全てのパーツをろう付けしてあとは真珠を留めるだけという所まできました。
いよいよ真珠を留めます。
使用する真珠は
真ん中の大きいマベパールは新規、
周りのアコヤ真珠は一部お客様支給品で、不足分は色と照りのあうものを新規で付けました。
アコヤ真珠は三重県の田辺真珠養殖場さんのものを使用しています。
花かんむりの拡大画像です。アコヤ真珠とプルメリアのバランスに気を使って作りました。
こちらは全体像です。どうでしょうか?
感謝の言葉と共に
いよいよ納品です。
お客様に見ていただいて気に入って頂けるか?納品の時はいつもドキドキなのです。
見た瞬間に歓声をあげて喜んで頂けました。
ジュエリーって今まではデパートとかの売り場で買う事しか頭になかったけれど、どれもピンと来るのがなかったんです。前田さんの作るジュエリーはどこにも売ってない素敵なデザインで、身につける人の事だけを考えて作ってくれたジュエリーだからとても嬉しいです。
こんな嬉しい言葉をかけて頂きました。
私もとっても嬉しいです。ありがとうございます!!